非常に仲のいい友人から、最近ギャンブル依存症であることを打ち明けられた。正しくは「依存症だった」が今は抜け出せたということだった。
ギャンブルにはまる人は周りにはおらず、マンガやドラマの中のような遠い話だと思っていたが、いきなり近しい友人から依存症であるということを言われたときは、不謹慎かもしれないが、非常に興味がわいた。
なぜギャンブル依存症となったか
既に彼は30代だが、ギャンブル依存症になったのは大学のときにさかのぼる。アルバイトではなく、手っ取り早くお金を稼ぎたい、空いた時間は学生ならではの勉強やサークル活動、旅行など今しか出来ないことをやりたいということであり、一見全うな理由だった。
他人の目から控えめに見ても、彼は一般的には頭が良い人の部類に入ると思う。いい大学にもいっていた。そして彼はそれを自分自身でも自覚をしていたはずだ。だからこそ、多くの普通の人がかもにされるようなギャンブルであっても、自分は勝つことが出来てお金を稼げるはずだ、という思考回路だったのだろう。
そして彼は泥沼にはまっていった。
負け続ける日々
アルバイトを嫌がっていた彼が、アルバイトで稼いだお金をギャンブルにつぎ込んで、どんどんとお金を溶かしていく。生活はいつになってもギリギリで月末のお金は危なかった。いつまでもギャンブルで損したお金を「勉強代」と考えていた。
いつかは取り戻せるという思考から抜け出せず、またこれだけ負け続けているのだから、コツをつかめば勝ち続けることができるようになるはずだ、という全うなようでまったく破綻した論理の元で、ギャンブルに邁進した。日々、時間さえあれば、彼はスマホで、パソコンでギャンブルに時間を使っていた。
しかし、社会人になったときに、彼はなんとかギャンブルをやめることが出来た。元々勉強が好きなタイプであり、ひとつのことに熱中する性格だったため、社会人となり、仕事が面白くなってまじめに仕事に取り組んでいたとのことだった。
「低収入」というコンプレックス
彼が就職活動をしたときは、リーマンショックから少し経っていた経済は好転し始めたが、まだまだ企業の採用意欲は戻っておらず、買い手市場の厳しい時期だったようだ。その中でも彼は誰もが知る大手企業に就職をした。第一志望ではなかったが、希望をしていた業界の大手であり、彼はそこそこ満足をした。周りでは、彼の通っていた有名大学でも就職浪人をする友人も多く、その中で内定を得られたという安心感もあったようだった。
ただ、彼にとって唯一の不満だったのは「給料が低いこと」だった。知名度はあり、自分のやりたかった仕事でもあったが、想像をしていた以上に給料が低かった。一年目、二年目はそんなこともあまり気にせず初めての仕事に夢中になって取り組んでいたため、あまり気にならなかったが、三年目となり、別の企業にいった大学の友人たちと比較して、自分の給料が低いことが気になってきた。
もちろん、大手企業であり、一般的には十分な金額の給料だったのではないかと思うが、彼の周りの友人たちにはもっと稼ぐ人も多かった。気づいてみると、彼はそのことが頭から離れられなくなり、今まで不満がなかったにもかかわらず、強烈なコンプレックスとなった。
そして、再び始めたギャンブル
仕事内容そのものに満足をしていた彼は転職をするという発想はなかった。低収入を抜け出すために頭に浮かんだのは、副業と、ギャンブルだった。大学時代にあれほど失敗したギャンブルだったのに、社会人になっていろんな経験をつんだ今なら勝てるはず、と考えたようだった。他人が聞くと、「仕事の経験」と「ギャンブルの強さ」はまったく相関がないことは一目でわかるが、本人はそう思っていたようだった。
彼は再びギャンブルを始めた。それも少しづつ、というわけではなく、そのときの貯金、毎月の給料のすべてをつぎ込んだ。負け続けていた経験しかないのに、彼の頭の中ではその経験を元に自分のやり方を改善させて、勝てるようになっている、という理解だったようだ。そして、学生のときとは一桁も二桁も違う元手があるため、勝ち続ければ学生時代の負けも一瞬で取り戻せるはずだ、という考えだった。
しかし、ギャンブルはそんなに甘くない。ものの一ヶ月と少しで、それまで低いと思っていた給料でもコツコツと貯めていた貯金を全て失った。ちょうど社会人三年目、友人の結婚ラッシュの時期だったが、ご祝儀が払えず、家族にお金を借りるか欠席するかなど通常の生活も一気に苦しくなってしまった。
桁違いの借金が生まれたカードローン
毎月、毎月25日に振り込まれる給料もすぐにギャンブルにつぎ込んだ。そして1,2週間で全て負けてしまい、ついには生活が苦しくなり、人生ではじめてのクレジットカードのキャッシングを利用して、生活費を払っていた。
そんな彼はあると気がついた。クレジットのキャッシングが出来るのであれば、カードローンも作れるのではと。そのとき彼の手元のキャッシングの枠は10万円だった。しかし、テレビを見ればカードローンのCMがバンバン放送されており、限度額は何百万と謳われている。
元手がなくなり、ギャンブルが出来ないつらさと、元手で何百万円も確保できれば、少し勝てればこれまでの負けを一気に取り戻せる。彼は確信した。そして、思い立ったその日にカードローンの申し込みを行った。
今はフリーローンというのがあるようで、資金使途についてはあまり明確にしなくても十分な収入があれば簡単にカードローンを作れてしまうらしい。大手の有名企業に勤めている彼は即日審査も通ったという。申込をした金額は400万円という大金にもかかわらずだ。
そしてここから彼のギャンブルの負けが桁違いに増えていった。
最初の1,2日は慎重に取り組んだようだったけど、少し勝ち始めると、これまでとは桁の違う利益に頭はぐらついて冷静さを全く失ったという。まさにカイジの世界である。そして、カードローンの枠の全てをギャンブルにつぎ込んだ。毎日毎日、仕事は片手間にギャンブルにのめりこんだ。
そして1週間で彼はその400万円を失った。
(続く)